日本の住宅産業
目次
縮小に向かう住宅産業
日本は、既に人口減少社会に突入し、世帯数も2019年頃をピークに減少に転じていくことが確実と言われています。
そのような社会環境の変化の中で、日本の住宅産業の市場規模はどのようになっていくのでしょうか?
これについては、野村総合研究所が2016年に発表した資料を参考にしてみましょう。
資料はこちらからご覧ください。
2030年の住宅市場(野村総合研究所まとめ)
国土交通省のデータによると新設住宅着工件数は2015年度で92万戸ですが、この野村総合研究所の資料によると、新設住宅着工件数は東京オリンピックが開催される2020年に79万戸(2015年比:85.9%)、2025年には67万戸(2015年比:72.8%)、2030年には54万戸(2015年比:58.7%)まで減少するという予測になっています。
かなり衝撃的な予測値じゃないでしょうか。
これは、移動人口、名目GDP成長率、平均築年数をベースに推計したもので、大げさではなく確実に見通せる世界です。
一方リフォーム市場規模は、現在の6兆円台後半から2025年に6兆円半ば程度でほぼ横ばいの予測になっています。
このように長期的な住宅市場の低迷が予測されますが、その中で注目したいのが既存住宅流通量は増加していくという予測です。
既存住宅を購入する世帯の比率は2015年の28.8%から2030年には47.8%へと一貫して増えていく予測になっています。
(これでも80%超の欧米と比較すると大きな格差があります。)
厳しさの増す日本の住宅産業にとっては、この辺にビジネスの種がありそうです。
しのぎを削る企業
このように確実に縮小に向かっている日本の住宅産業ですが、その市場規模に対して、数十万社と言われる住宅建設に携わる企業がしのぎを削っています。
こうした企業のうち、多くを占めるのが地場の工務店です。
一口に工務店といっても、かなりその規模にばらつきがありますが、全国展開するハウスメーカーを除くと、多くが地域密着型の工務店になります。
住宅市場ではハウスメーカーのような大手企業も零細企業レベルの工務店も同じ土俵の上で戦っているのが特徴です。
そのシェア(戸建て住宅)を見てみると、大手のハウスメーカー上位10社で30%に満たないくらいの低いシェアで、半分以上のシェアを占めているのは未だに地場の中小企業になっています。
ちなみに、多くの方が大手ハウスメーカーを、注文住宅の家づくりに着手する場合、検討の候補に入れるのではないかと思いますが、この全国展開するハウスメーカーというのは、日本の特殊な企業だということはご存じでしょうか。
欧米では、このような企業形態は存在せず、地場産業としての地域密着型の企業しかありません。
このような海外から見れば特殊な全国展開するハウスメーカーが、いい意味でも、悪い意味でも、日本の住宅産業を特徴づけています。
日本の住宅産業は、これらの大手のハウスメーカー主導で形作られているのです。
昔の日本の住宅産業は、完全に地場産業で、家を建てるということになったら、地域の昔からのなじみのある大工さんに頼むとか、知り合いからいい腕の大工さんだと紹介されたというような方がほとんどでした。
そこに登場してきた大手のハウンスメーカーは、均質的、画一的な商品と、地場の工務店にはたちうちできないマーケティング手法でその規模を拡大していったのです。
ハウスメーカー主導の日本の住宅産業
ハウスメーカーが主導してきた日本の住宅産業の現状について整理していきたいと思います。
多層的な下請け構造
ご存じかと思いますが、大手の建築会社が、新築工事の請負契約をかわしても、その施工を自社で行うということはまずありません。
だいたい、全国展開しているような大手の会社が、全国に自社の施工会社をつくって従業員を配置するなんて実際には無理な話なのです。
それでは、どうしているかというと、受注金額の何割かを手数料(上前)としてハネて、受注した地域の工務店、特約店に回しています。そして、下請けの工務店は、その個別の作業を更に下の業者に回すというような多層的な下請け構造が確立しているのです。
その構造が多層になればなるほど、上前はハネられていくので、受注金額のうち実際に建築工事にかけられる原価比率はどんどん下がっていきます。
これにより、一番下層に位置する施工会社に回ってくる時には、かなり厳しい金額で回ってくるケースが多くなります。そして、その厳しい条件で利益を上げようすることが、手抜き工事につながりかねないということは容易に想像できます。
まるで流通業のように「家づくり」という商品を右から左に流して、サヤを抜いて利益を出しているというのが、大手の収益構造なのです。
莫大な広告宣伝費、営業費
この点については、みなさんも容易に想像できると思いますが、ここではテレビCMと広告、モデルハウス、営業マンについて言及したいと思います。
まずテレビCMと広告ですが、テレビをつけていると、大手ハウスメーカーのCMを見ない日はないくらい流されています。自動車メーカーや化粧品メーカーといったイメージやブランドの訴求力を重点的にCMに見出している企業にはおよばないものの、大手ハウスメーカーも有名なタレントを起用し、ゴールデンタイムに流すなど、かなりの資金を投じています。
そして、新聞に折り込まれるチラシ・広告などもフェアのご案内ということで毎週末のように目にしていると思います。
更に、モデルハウスですが、確かにお客さまにとっては、実際に見て確かめられるという利点を生み出しました。店頭に並んでいる商品を見て回るような感覚で、イメージは具体的になり、いろいろなメーカーの家を比較検討できるというメリットがあるので、現在もモデルハウスが立ち並ぶ総合住宅展示場に足を運ばれるお客さまはとても多いと思います。
一方、主催するメーカー・工務店サイドにしてみると、モデルハウスを集客ツールとして、購入見込み客を獲得し、営業活動の起点とする大きなメリットがある訳です。
その結果として、お客さまによりよいイメージをもってもらおう、他社よりもいいイメージをもってもらおうということで、モデルハウスは、その住宅自体だけでなく、インテリアも含め、より豪華に、よりセンスよく、非常に見栄えのするものになっています。言い換えると、お客さまに「こんなところに住めたらいいなぁ~」と夢を見させてあげているのです。
ただし、ほとんどの方にとっては、それらは本当に夢にすぎない家ばかりです。実際に建てようとすると、豪華に見えている部分の大半はオプション設定であり、そのオプションを全て選択できるほどの予算をもつお客さまはとても少数だと思います。
そして、これらのモデルハウスは、車のフルモデルチェンジのように、新しい商品が投入されるたびに取り壊され、新商品用のモデルハウスが建築されていきます。
最後に、営業マンについてですが、特に大手では多くの営業専門職を雇っています。
これまで見てきたように、大手は実際に施工する訳でなく、注文をとって、それを下請けの施工会社に回すことで収益を上げているので、最終的にお客さまを契約締結へと導く営業マンの力はとても重要になっています。
実際にお客さまの契約後の感想で多いのが、「担当営業マンの人柄、熱意に魅かれた」というものですから、重点的に人材を配置しているのはうなずけるところですが、多くの営業マンを抱えるコストは大きくならざるを得ないわけです。
このように、地場の工務店と比較して、莫大な広告宣伝費、営業費が投入されていることはご理解いただけると思います。
それでは、この莫大な費用は、誰が負担しているのでしょうか。
企業は収益を追求する集団ですから、無償でこれらの費用を負担することはありませんので、結局はお客さまが負担しているということになります。
ある人が新しく家を建てた人に言ったそうです。
「あなたが支払った建築費の実に4割が広告宣伝・営業費に消えていますよ。」
この数字は検証していないので、実際にはどの程度かはわかりませんが、お客さまが支払う金額のかなりの部分が広告宣伝・営業費の回収になっていることは間違いありません。
高い建築資材
これは、まさに資材流通システムに起因する点です。一軒の家が完成するには、約2万点もの資材が必要だといわれています。
通常の資材の流れは、以下の通りです。
資材メーカー→商社→問屋→販売店→工務店
このそれぞれの流通過程で、中間マージンがとられていきますが、資材メーカーの原価が100とすると、工務店がお客様に提示する金額は、少なくとも150以上、多ければ200くらいになる可能性があります。
この資材流通に加えて、資材メーカーの市場寡占状態が価格高止まりの建築資材を生み出しているともいえます。例えば、トイレや洗面所などについては、TOTOとINAXでほぼ市場を独占していますし、住宅用ガラスは、旭硝子、日本板硝子など数社で寡占状態となっています。
日本のメーカーの建築資材が高いという理由で、海外メーカーの資材を使用することを検討しても、海外の資材は日本では現地価格の数倍で取引されていたり、建築基準法や品確法によって使用することすらできない状態になっているために、結局、建築資材の価格は高いままお客さまに跳ね返ってしまうという現状になっています。
画一的、均質的な商品としての家
企業というのは、当たり前のことですが、利益追求のため、効率性・合理化を求めます。
大手ハウスメーカーは、それを家づくりに積極的に取り入れてきました。それが、顕著に表れているのが、プレハブ工法です。プレハブ工法は、あらかじめ工場で生産・加工された部材を現場に搬入し、組み立てていく工法です。
工場での大量生産によりコストが下がり、現場では組み立て作業中心になるため、工期が短くなるメリットがあります。そうしてできた家は、品質的にブレの少ない、画一的な商品としての家になります。
極端にいえば、プラモデルのような家です。均質な材料が与えられて、技術力もない人が組立の説明書をみながら、組み立てるような、そんな家なのです。
現場で加工する必要もあまりないので、昔のような職人気質の技術をもつ大工さんは少なくなりました。施工技術がそれほどなくても建てられる家、残念ながらそれが現在の日本で多く見られる家づくりです。
効率性・合理化を否定するつもりは全くありませんが、こうした家は、実際に住む人の要望を取り入れた家ではなく、どうしても建築サイドに立った家になってしまいがちです。
わかりにくい見積書
この点は、大手主導とはいえませんが、現在の住宅業界の悪しき一面として言及したいと思います。
最近のお客さまは、知り合いなどの人間関係により、最初から業者を決め打ちしている場合を除いて、数社から相見積りをとるケースが多いようです。中には、10社くらいから見積りをとる施主もいらっしゃるようですが、比較しようとして、ハタと困ってしまう方がとても多いと思います。
なぜなら、その見積りの様式も、記述の仕方、記述内容も全てバラバラなのですから。
最近は、見積り内容の透明性を求める方が多いため、以前の住宅業界ではまかりとおってきた「何々工事一式」という見積りはかなり少なくなってきたと思いますが、それでも仕様内容については統一性がないため、なかなか比較しにくいというのが現実です。
比較検討する方の動機づけで大きいのは、何といっても「どちらは安いのか、リーズナブルなのか」ということだと思いますが、結局絶対値としての見積り金額合計の比較ができるだけで、どの部分で最終的な金額の差が生じているのかは、厳密にはなかなか把握しにくいと思います。
また坪単価の比較というのも、よく行われます。
実際一坪当りの金額なので、表面上は比較しやすいのですが、そんなに簡単ではありません。
坪単価とは、文字通り、建築金額合計を建築面積(坪単位)で割ったものですが、業者によって、分子である建築金額も分母である建築面積も、その定義はマチマチです。分子も分母もその前提条件がそろっていないのでは、その結果として算出される坪単価を単純に比較はできないことはご理解いただけると思います。
とにかく、これからの住宅業界は、お客さまに対して、より透明性のある、わかりやすい見積りを提供できるように努めていかなければならないことは間違いありません。
現在は、個別の業者さんがそれぞれ独自に取り組んでいますが、行政主導のもと、業界統一基準が策定され、誰が見ても明確な見積りに変化していくべきだと考えています。
このように日本の住宅産業の現状を見てきましたが、以下簡単にまとめてみましょう。
本来、<材料費+労務費+経費+請負会社の妥当な利益>で構成されるべき住宅建築費用が、資材流通の過程で高い資材を使用せざるをえなく、多層的な下請け構造により余分なマージンが上乗せされ、莫大な広告宣伝費、営業費も負担させられているので、日本の家づくりは高コストになりやすい。
そして、高い割には、原価比率が低いため、品質のいい家になりにくく、メーカーサイドの画一的な商品を受け入れては、お客様が本当に望んでいる家にはなりにくいという状況になっている。
日本の住宅産業の現状は以上のような感じですが、今後はどのような展開になるのでしょうか。
確実に言えることは、市場縮小が続く中で、これまで以上に企業淘汰のスピードが加速するということです。
今も年間で新築10棟未満の工務店が全国に多く存在していますが、年々その数を減らしており、市場規模縮小とより複雑になってきている法対応などで、ますます厳しい状況に置かれると思われます。(特に都市部の工務店は厳しい)
大手のハウスメーカーと言えども、全く油断はできません。
社会環境の変化とともにお客様の意識がどんどん変化する中で、いかにお客様目線に立って、自社商品を開発し、お客様に満足してもらえる家づくりができるか、が更に重要になっていくでしょう。
【第2部:これからの注文住宅に求められること】
公開日:
最終更新日:2016/09/23