自然素材のメリット・デメリット
目次
自然素材のメリット
自然素材を使う代表的なメリットについて整理してみましょう。
有害物質をほとんど出さない
シックハウス症候群の社会問題化を契機に注目度が高まった「自然素材」ですから、まずこの点にメリットを感じる人は多いと思います。
確かに自然界に存在するものをベースにしていますから、基本的には生物や地球環境にやさしい素材です。
ただし「基本的には・・・」です。
ここではメリットに焦点をあてているので、詳しくは別ページの「自然素材は有害?」で説明しますが、100%安心・安全かというとそうではない、ということを注意点としてお伝えしておきます。
とは言っても、いわゆる新建材といわれる物に比べて安心・安全な資材であることは間違いありませんし、アトピー、ぜんそく、化学物質過敏症などアレルギーの疾患に悩まれる方にとっては改善策の一つになる可能性はあります。
廃棄時には自然に還すことが可能
当たり前ですが、自然由来なので、廃棄しても自然の循環サイクルに取り込まれます。
そのため工業製品と比べて廃棄時に環境に負荷をかけずに自然に還すことが可能ですし、無垢材などは廃棄せずに再利用していくこともできます。
素材感や肌ざわりが優しく、見た目も優しい
無垢材や漆喰などに触れると工業製品にない温かみや肌さわり感がありますし、見た目にも優しく、一つ一つの素材に個性があるので、愛着も湧きやすくなると思います。
断熱・調湿効果がある
無垢材、塗壁、自然クロス、それぞれ断熱・調湿効果があります。
断熱効果とは言っても、もちろん断熱専用に開発された断熱材の性能にかなうものではありませんが、鉄やコンクリートといった熱伝導率の高い建築素材よりもはるかに断熱性能に優れています。
また調湿効果は自然素材の素晴らしい特長の一つです。湿気の吸収・放出を繰り返して、室内の湿度を調整する効果があります。
日本は多くの地域が温暖湿潤気候に属している通り、湿気の多い国です。そうした国の家づくりでは湿気対策が重要で、家づくりにおいては結露を発生させないことが求められますが、そうした対策において「自然素材」は大きな効果を発揮します。
経年変化によって多彩な表情が楽しめる
この点はメリットに挙げていますが、経年変化については人によっては、デメリットと感じてしまうかもしれません。
自然素材は、時を経るに従って変化していきます。
無垢材では顕著ですが、ほっておくだけで色の変化があります。
木の種類にもよって変化の仕方が異なりますが、紫外線の影響などを受けて色が変わっていきます。(濃くなっていくのが普通ですが、白っぽくなるものもあります。)
また、生活していくとキズやスレといったものは自然とできてきます。
これらを経年変化と呼びますが、それを楽しめるような感覚でないと、デメリット(経年劣化)に感じてしまう可能性があります。
いつまでも新品のような状態を求めるなら、経年変化はデメリットになりますが、味わいとしてとらえるなら、それはメリットの一つになります。
製品化の際のエネルギー負荷が少ない
「自然素材」は工業製品に比べて製品化するのにエネルギー負荷は少なくてすみます。
当たり前ですが、工業製品は、自然界に存在しないものを人工的に作り出したものですから、製品化に多くのエネルギーを必要とします。
集成材と無垢材を比較すれば明らかですが、集成材はそもそも柱にはならない板を貼り合わせて人工的に柱として仕上げたものです。
それに対して、無垢材は素材そのものを切って仕上げれば柱になるので、そのエネルギー負荷の差は歴然としています。
エネルギー負荷が少ないということは、地球環境への負荷が少ないということですので、大きなメリットなのです。
自然素材のデメリット
上記でいくつかのメリットについてご説明したように「自然素材」はとてもいい素材であることは間違いありませんが、以下のようなデメリットもあります。
個々の素材で、品質や表情にムラがある
均質化した工業製品ではないので、個々に品質や表情にムラがあるのは仕方のないことです。
住宅の性能にまで影響を及ぼすような品質の差があるのは問題ですが、多少の差はどうしても生じます。
また表情についても、なに一つとっても同じものが存在しないところが自然素材の特徴です。例えば無垢材の木目などは素材ごとにかなり表情が変わりますので、人それぞれに好みが出ます。それをデメリットとして捉えるか、味わいとして捉えるか、は選択する人の考え方によります。
湿潤状態が続くことに弱い(カビや腐朽)
「自然素材」の特長の一つに調湿効果があることはメリットで取り上げた通りです。
しかし、湿度状態はある一定の範囲内は調湿できますが、限度を超えて長期間継続すると「自然素材」にとって悪い影響を及ぼします。
無垢材を一例に挙げれば、森を歩いていると倒れた木にカビが発生して、腐って朽ちていく様をご覧になったことはあると思います。
このように長期間湿潤状態が続くと、腐って朽ちて土に還るという自然の循環サイクルに入っていくのですが、これは自然界の中では当然のこととはいえ、住宅の建築資材としての役割を与えられた「自然素材」にこのようなことが起こっては大問題です。
しかし、湿気の多い日本の気候の中では、現実問題として日本の住宅ではこのようなことが頻繁に起こっています。
「自然素材」のデメリットから外れていまいますが、リフォームなどで家の壁内、柱や土台などを見る機会があると、カビが発生して真っ黒になっていたり、柱や土台が腐って全くその役割を果たしていないことがあります。これは、長期間湿潤状態におかれた結果です。長期間の湿潤状態とは「結露」の状態です。
ですから、日本の木の家づくりで大敵は「結露」なのです。
本来、木材はとても耐久性に優れた素材ですが、ここでデメリットにあげているように長期間の湿潤状態には弱い素材です。
このデメリットを克服するためにも、結露対策がきちんと取られた住宅にしなければならないのです。
湿度により伸縮するし、変形する場合がある
「自然素材」は調湿作用によって湿気により伸縮しますし、更には湿気によって変形する場合があります。
「自然素材」は湿気を取り込めば膨らみますし、放出すれば縮みます。
無垢材などは割れやクルイ、反りなどの変形が起こる場合があります。
現在の無垢材は含水率を低く抑えているので、昔の木材のように変形は起こりにくくなっていますが、それでもこのようなことは起こりうるものだと認識しておくべきだと思います。
無垢材の扱いになれている腕のいい大工さん、職人さんはもちろんこのような特性を理解しているので、伸縮は起こる前提で家づくりを行います。
湿度による伸縮、変形などはデメリットというよりは、特性としてそういうものだ、と受け入れないと自然素材は選べないと思います。
メンテナンスに手間がかかる場合がある
利便性や効率性を追求している工業製品に比べて、メンテナンスに手間がかかる場合があります。
自然塗料は定期的な上塗りはかかせませんし、土壁を選んだ場合は普通のクロスを選択した場合に比べてかなり手間がかかります。
漆喰や珪藻土といった塗壁も土壁よりは手間がかからないとは言え、湿度による伸縮や建物の揺れなどで細かなクラック(ヘアークラック)が入ることは覚悟しておいた方がいいので、気になる方にとってはそのメンテナンスの手間がかかる場合があります。
(ヘアークラックを味わいとしてそのままにしておくお客様もいらっしゃいますので、それはお住まいの方の考え方によります。)
家をいい状態で長く保ちたいなら、適切なメンテナンスは必須です。
工業製品でもメンテナンスフリーでは長期間いい状態は保てません。
「自然素材」は工業製品よりもメンテナンスに手間がかかるケースが多いですが、メンテナンスの重要性を肌身で感じたいならかえって「自然素材」の方が適しているような気がします。
虫害を受ける場合がある
これもある意味仕方ないですが、虫害を受ける可能性があるからこそ「自然素材」だと言うこともできます。
とは言っても、住宅にとってはシロアリの被害だけは避けなければなりません。やはり自然素材だけで防虫するというのは限界があります。
いくら青森ヒバに抗菌、防虫作用があるからといって、それだけで完全に防虫できるものではありません。
家全体の取り組みとして防虫(特にシロアリ対策)は行って行く必要があります。シロアリ対策の基本的な考え方は、エサとなる木材を直接シロアリにさらさない、そして湿気対策を行う、この2点です。
工業製品よりも施工技術が求められ工期が長くなる場合がある
これは既にご説明しました通り「自然素材」は品質が一定でなくバラツキがあり、伸縮、変形する場合があるので、工業製品と比較して基本的に施工は難しくなります。
ですから均質化した工業製品の施工に慣れてしまっている現代の大工さんや職人さんは「自然素材」の施工を嫌がる人もいます。
「自然素材」は工業製品のように技術がなくても施工できるようなものではないため、扱いに慣れた人に施工してもらう必要がありますし、工期も長くなるケースがあることは知っておいたほうがいいでしょう。
一般的には工業製品よりも価格が高い
デメリットの最後に挙げましたが、「自然素材」を選択する上では、ここがやはり一番気になる点になる人が多いと思います。
「自然素材」がいいものだとはわかったけど、こんなにコストが増えちゃうのか~、さてどうしよう?
という反応になってしまいます。
効率性を重視して大量生産でコストを下げられる工業製品に比べて、生産コストを下げられない「自然素材」の建築資材はどうしても価格が高いものが多くなります。
予算が潤沢であれば、コストを気にせず気に入った「自然素材」を選択して家づくりに活かしていけばいいのですが、ほとんどの方はそういう訳にはいきません。
通常は限られた予算の中で、いかにご自身、ご家族のご希望をバランスよく叶えるかを考えなければなりません。
「自然素材」も家づくりにおける多くの希望のうちの一つに数えられるとして、やはり希望の優先順位づけをしながら、コストとの兼ね合いで、どんな「自然素材」をどこに使っていくかをじっくりと検討していくしかないと思います。
公開日:
最終更新日:2016/09/23