多分まだ多くの人が知らない、建築における地震対策の盲点とは?
日本は地震大国とも呼ばれ、過去に多くの甚大な被害を蒙ってきました。
そんな苦い歴史の中で日本の建築物は地震の被害を極小化するために、先人達が知恵を絞って進化してきたのです。
国としては法律(建築基準法)を改正しながら、法規制に基づく地震対策を推進してきました。
現在の木造建築の建築基準法の規制は阪神淡路大震災の分析がベースとなっています。
その考え方は、地震という建築物の変形を促す大きなエネルギーに対して、変形を許さない、つまり建築物の剛性を高めて対抗しようというものです。
基礎と土台をアンカーボルトで固定し、ポイントポイントを金具で固定するなど、とにかく建物をガッチリと固めて、振動させても変形しないような建築物を目指した訳です。
こうした考え方に基づいて、住宅品質確保促進法では以下のような耐震等級が定められました。
- 耐震等級1 建築基準法の1.0倍
- 耐震等級2 建築基準法の1.25倍
- 耐震等級3 建築基準法の1.5倍
この等級は言ってみれば建築物の剛性の強さの等級です。
したがって、耐震等級3が一番地震に強いと考えるのが普通だと思います。
確かに剛性という点では耐震等級3が一番高いことは間違いありません。
しかし、どんな地震に対しても耐震等級3が一番強いかというとそうではないのです。
実は、揺れの周期によって影響を受けるモノが変わってくるのです。モノにはそれぞれに揺れやすいリズムがあり、ある揺れのリズムに合うように外部から刺激を与えられると、揺れが増幅されて大きくなる現象が起きます。
この現象を共振現象と言います。
この揺れを地震に見立てると、地震にも比較的ゆっくり揺れる場合や小刻みに揺れる場合など、揺れ方が異なることは肌で感じたことがある人もいると思います。
これが地震の周期です。
因みに、阪神淡路大震災では比較的ゆっくりとした周期で、東日本大震災は比較的早い周期だったと言われています。
地震による建物の被害は、これまでは「震度=ある地点における地震の揺れの大きさ」に比例して増えるものと思われてきましたが、実際には震度の影響だけではなく、揺れの周期も関係することが研究結果から分かってきています。
人が住む建造物(特に古い木造住宅)が共振現象を起こしやすいのは周期1~2秒の割りとゆっくりとした地震動です。
この周期の地震動が俗に「キラーパルス」と呼ばれています。
阪神淡路大震災で多くの古い木造建築が倒壊したのは、こうした背景もあったのです。
一方、東日本大震災では、キラーパルスが阪神大震災の2~5割に過ぎなかったと言われており、この地震動の周期の違いにより、地震エネルギーの大きさの割りには比較的木造建造物への直接的な被害が少なかったと分析されています。
このような地震の被害分析を踏まえて、従来の剛性を高めるだけの地震対策だけでは不十分だということが、近年明らかになってきています。
勘違いしてほしくないのですが、従来から行われている剛性を高める地震対策が誤っているという訳ではありません。
剛性を高める、いわゆる強い家であることは必要ですが、それだけでは地震の周期によっては、被害を受ける恐れがあるので、その場合の対策もしておいた方がより安心という考え方です。
より安心の地震対策にはプラスアルファで何が必要かといえば、それは長く粘り、地震エネルギーを吸収するような制震の技術です。
(免震という技術もありますが、まだ木造建築では金額が高いのがネックです。)
つまり、剛性を高めて真正面から地震エネルギーを受け止めるだけではなく、粘りを出して地震エネルギーを吸収する領域をプラスすることで、人命だけでなく建物自体も守るという考え方が必要になってくるのです。
「制震の技術はいいかもしれないけど、導入コストが高いんじゃないの?」
と思われる人も多いかもしれませんが、近年は木造制震についてコスト的に導入しやすいものが多く出てきています。
例えば以下のような制震技術は既に多くの注文住宅に採用されています。
残念ながらこれからも日本で住んでいる以上、地震のリスクからは避けられません。
新しく注文住宅を建築する場合には、住む人の生命を守ることは当然のこととして、建物自体も守るために、制震の技術は検討に値するのではないでしょうか。
2016/06/10